構造体とクラス(Structures and Classes)
最終更新日: 2024/6/26
原文: https://docs.swift.org/swift-book/LanguageGuide/ClassesAndStructures.html
データをカプセル化する独自のデータ型をモデル化する。
構造体とクラスは、プログラムのコードの構成要素を構築する汎用的で柔軟な構造概念です。定数、変数、関数の定義に使用するのと同じ構文を使用して、プロパティとメソッドを定義して機能を追加します。
他のプログラミング言語とは異なり、Swift では、インターフェイスと実装ファイルを別々に作成する必要はありません。構造体またはクラスを 1 つのファイルで定義すると、その外部インターフェイスは自動的に他のコードで使用できるようになります。
NOTE
昔からオブジェクトはクラスのインスタンスはとして知られています。ただし、 Swift の 構造体とクラスは、他の言語以上に機能がかなり似ていて、この章でも、構造体またはクラス型のインスタンスのどちらにも当てはまる機能について説明しています。このため、より一般的な意味合いでインスタンスという用語を使用します。
構造体とクラスの比較(Comparing Structures and Classes)
Swift の構造体とクラスには多くの共通点があります。いずれも下記のようなことができます:
- 値を格納するプロパティを定義できます
- 機能を提供するメソッドを定義できます
- サブスクリプト構文を使用して値へのアクセスを提供するサブスクリプトを定義できます
- 初期状態を設定するためのイニシャライザを定義できます
extension
で機能を拡張できます- 特定の種類の標準機能を提供するためにプロトコルに準拠できます
これらの機能の詳細については、Properties(プロパティ)、Methods(メソッド)、Initialization(初期化)、Extensions(拡張)およびProtocols(プロトコル)を参照ください。
一方で、クラスには、構造体にはない追加の機能があります。
- あるクラスが別のクラスの特性を継承できます
- 実行時のクラスインスタンスの型の確認と解釈に型キャストが使えます
- デイニシャライザを使ったクラスのインスタンスに割り当てられているリソースの解放
- 参照カウントを使ったある同じクラスインスタンスへ複数から参照できます
これらの機能の詳細については、Inheritance(継承)、Type Casting(型キャスト)、Deinitialization(デイニシャライザ)、Automatic Reference Counting(自動参照カウント)を参照ください。
クラスは追加の機能をサポートしている分、複雑さが増します。一般的なガイドラインとして、構造体の方が扱いやすく推奨されます。クラスは適切または必要な場合にのみ使用してください。つまり、実際は、独自に定義する型のほとんどが構造体と列挙型になることを意味します。より詳細な比較はChoosing Between Structures and Classesを参照ください。
NOTE
クラスとアクターは多くの共通の特徴や振る舞いを持ちます。アクターについては、並行処理(Concurrency)を参照ください。
定義構文(Definition Syntax)
構造体とクラスの定義構文は似ています。struct
キーワードを使用して構造体を作成し、class
キーワードを使用してクラスを作成します。どちらも、定義全体を中括弧のペア({}
)内に配置します:
struct SomeStructure {
// 構造体の定義をここに
}
class SomeClass {
// クラスの定義をここに
}
NOTE
新しい構造体またはクラスを定義するときはいつでも、新しい Swift の型を定義します。標準の Swift の型(String
、Int
、Bool
など)と同じように、型にUpperCamelCase
名(ここではSomeStructure
やSomeClass
など)にします。プロパティとメソッドはlowerCamelCase
名(frameRate
やincrementCount
など)として、型名と区別します。
構造体定義とクラス定義の例を次に示します。
struct Resolution {
var width = 0
var height = 0
}
class VideoMode {
var resolution = Resolution()
var interlaced = false
var frameRate = 0.0
var name: String?
}
上記の例では、Resolution
と呼ばれる新しい構造体を定義して、ピクセルベースのディスプレイ解像度を記述しています。この構造体には、width
と height
という 2 つの格納プロパティがあります。格納プロパティは、構造体またはクラスの一部として紐付け、格納される定数または変数です。これらの 2 つのプロパティは、初期値に 0
を設定することにより、Int
型だと推論されます。
上記の例では、ビデオ表示用の特定のビデオモードを記述するために、VideoMode
と呼ばれる新しいクラスも定義しています。このクラスには、4 つの格納プロパティの変数があります。最初の resolution
は、新しい Resolution
構造体インスタンスで初期化されており Resolution
型だと推論されます。他の 3 つのプロパティに関しては、interlaced
に (「非インターレースビデオ」を意味する)false
を、再生フレームレートに 0.0
、および name
と呼ばれるオプショナルの String
値で初期化されます。name
プロパティはオプショナル型のため、デフォルトで nil
が自動的に設定されます。
struct と class のインスタンス(Structure and Class Instances)
Resolution
構造体の定義と VideoMode
クラスの定義は、Resolution
または VideoMode
がどのようなものかを説明しているだけです。それら自体は、特定の解像度やビデオモードについては説明していません。そうするためには、構造体またはクラスのインスタンスを作成する必要があります。
インスタンスを作成するための構文は、構造体とクラスの両方で非常に似ています。
let someResolution = Resolution()
let someVideoMode = VideoMode()
構造体とクラスはどちらも、新しいインスタンスに初期化構文(init
)を使用します。初期化構文の最もシンプルな形式では、クラスまたは構造体の型名の後に、Resolution()
や VideoMode()
などの空の括弧(()
)が続きます。これにより、クラスまたは構造の新しいインスタンスが作成され、プロパティはデフォルト値で初期化されます。クラスと構造体の初期化については、Initialization(初期化)で詳しく説明しています。
プロパティへのアクセス(Accessing Properties)
ドット構文を使用して、インスタンスのプロパティにアクセスできます。ドット構文では、インスタンス名の直後に、スペースを入れずにピリオド(.
)で区切ってプロパティ名を記述します。
print("The width of someResolution is \(someResolution.width)")
// The width of someResolution is 0
この例では、someResolution.width
は someResolution
の width
プロパティを参照し、デフォルトの初期値 0
を返します。
VideoMode
の resolution
プロパティの width
プロパティなど、より深い階層へもアクセスできます。
print("The width of someVideoMode is \(someVideoMode.resolution.width)")
// The width of someVideoMode is 0
ドット構文を使用して、変数プロパティに新しい値を代入することもできます。
someVideoMode.resolution.width = 1280
print("The width of someVideoMode is now \(someVideoMode.resolution.width)")
// The width of someVideoMode is now 1280
構造体のメンバワイズイニシャライザ(Memberwise Initializers for Structure Types)
全ての構造体には、メンバ全てに値を設定して初期化するイニシャライザ(メンバワイズイニシャライザ)が自動的に生成されます。新しいインスタンスのプロパティの初期値は、プロパティ名でイニシャライザに渡すことができます。
let vga = Resolution(width: 640, height: 480)
構造体とは異なり、クラスはデフォルトのイニシャライザを自動で生成しません。イニシャライザについては、Initialization(初期化)で詳しく説明しています。
構造体と列挙型は値型(Structures and Enumerations Are Value Types)
値型は、変数または定数に値が割り当てられたとき、または関数に渡されたときに値がコピーされる型(値型)です。
これまでの章では、実際に値型を多く使用してきました。実際、Swift の基本的な型(整数、浮動小数点数、ブール値、文字列、配列、辞書)はすべて値型で、内部では、構造体として実装されています。
全ての構造体と列挙型は値型です。つまり、作成した構造体と列挙型のインスタンス、およびそれらがプロパティとして持つ値型は、コードで渡されるときに常にコピーされます。
NOTE
配列、辞書、文字列などの Swift 標準ライブラリによって定義されたコレクションは、コピーのパフォーマンスコストを削減するように最適化されています。これらのコレクションは、すぐにコピーを作成する代わりに、元のインスタンスとコピーの間で要素が格納されているメモリを共有します。コレクションのコピーの1つが変更された場合、要素は変更の直前にコピーされます。動作上では、常にコピーがすぐに行われているかのように見えます。
前の例の Resolution
構造体を使用した場合について考えてみます。
let hd = Resolution(width: 1920, height: 1080)
var cinema = hd
この例では、hd
という定数を宣言し、フル HD ビデオの幅と高さ(幅 1920 ピクセル、高さ 1080 ピクセル)で初期化された Resolution
インスタンスを設定します。
次に、cinema
という変数を宣言し、hd
の現在の値を設定します。Resolution
は構造体のため、既存のインスタンスのコピーが作成され、この新しいコピーが cinema
に割り当てられます。hd
と cinema
の幅と高さは同じになりましたが、内部ではまったく異なる 2 つのインスタンスです。
次に、cinema
の width
プロパティは、デジタルシネマ映写に使用される、わずかに幅の広い 2K 標準の幅(幅 2048 ピクセル、高さ 1080 ピクセル)に修正されます。
cinema.width = 2048
cinema
の width
プロパティを確認すると、実際に 2048 に変更されていることがわかります。
print("cinema is now \(cinema.width) pixels wide")
// cinema is now 2048 pixels wide
ただし、元の hd
インスタンスの width
プロパティは、1920 のままです。
print("hd is still \(hd.width) pixels wide")
// hd is still 1920 pixels wide
cinema
に hd
の現在の値が与えられると、hd
に保存されている値が新しい cinema
インスタンスにコピーされます。これらは、同じ数値を含む 2 つの完全に別個のインスタンスですが、次の図に示すように、cinema
の幅を 2048
に設定しても、hd
に保存される幅には影響しません:
列挙型でも同じように動きます。
enum CompassPoint {
case north, south, east, west
mutating func turnNorth() {
self = .north
}
}
var currentDirection = CompassPoint.west
let rememberedDirection = currentDirection
currentDirection.turnNorth()
print("The current direction is \(currentDirection)")
print("The remembered direction is \(rememberedDirection)")
// The current direction is north
// The remembered direction is west
RememberedDirection
に currentDirection
の値が割り当てられると、実際にはその値のコピーが設定されます。その後、currentDirection
の値を変更しても、rememberedDirection
に保存されていた元の値には影響しません。
クラスは参照型(Classes Are Reference Types)
値型とは異なり、参照型は、変数または定数に割り当てられたとき、または関数に渡されたときにコピーされません。コピーではなく、同じ既存のインスタンスへの参照が使用されます。
上記で定義した VideoMode
クラスを使用した例を次に示します。
let tenEighty = VideoMode()
tenEighty.resolution = hd
tenEighty.interlaced = true
tenEighty.name = "1080i"
tenEighty.frameRate = 25.0
この例では、tenEighty
という新しい定数を宣言し、VideoMode
クラスの新しいインスタンスを参照するように設定します。ビデオモードには、元々 1920
x 1080
の HD 解像度のコピーが割り当てられています。インターレースされるように設定され、名前には "1080i"
、フレームレートは 25.0
フレーム/秒が設定されています。
次に、tenEighty
を alsoTenEighty
という新しい定数に割り当て、alsoTenEighty
のフレームレートを変更しています。
let alsoTenEighty = tenEighty
alsoTenEighty.frameRate = 30.0
クラスは参照型のため、tenEighty
と alsoTenEighty
は両方とも同じ VideoMode
インスタンスを参照しています。事実上、次の図に示すように、これらは同じインスタンスに 2 つの異なる名前を付けているだけです:
tenEighty
の frameRate
プロパティを確認すると、基になる VideoMode
インスタンスから 30.0
の新しいフレームレートが正しく設定されていることがわかります。
print("The frameRate property of tenEighty is now \(tenEighty.frameRate)")
// The frameRate property of tenEighty is now 30.0
この例は、参照型の扱いがいかに難しいかを示しています。tenEighty
と alsoTenEighty
がコード内で大きく離れている場合、ビデオモードが変更される全ての場所を見つけるのは難しいかもしれません。tenEighty
を使用する場合は常に alsoTenEighty
を使用するコードも考慮する必要があります。その逆も同様です。対照的に、値型は、同じ値に作用する全てのコードは近くにあるため、考慮する点が少なく扱いが簡単です。
tenEighty
と alsoTenEighty
は、変数ではなく定数として宣言されていることに注目してください。それでも、tenEighty
および alsoTenEighty
定数自体の値は実際には変更されないため、tenEighty.frameRate
および alsoTenEighty.frameRate
を変更することはできます。tenEighty
と alsoTenEighty
自体は、VideoMode
インスタンスを「格納」しません。代わりに、どちらも内部で同じ VideoMode
インスタンスを参照します。変更されるのは、基になる VideoMode
の frameRate
プロパティで、その VideoMode
への参照を持つ定数ではありません。
同値演算子(Identity Operators)
クラスは参照型のため、複数の定数と変数が内部でクラスの同じインスタンスを参照する可能性があります。(構造体や列挙型は、定数や変数に割り当てられたとき、または関数に渡されたときに常にコピーされるため異なります)
2 つの定数または変数が同じインスタンスを参照しているかどうかを確認すると便利な場合があります。これを可能にするために、Swift は 2 つの同値演算子を提供します:
- 同一(
===
) - 同一ではない(
!==
)
これらの演算子を使用して、2 つの定数または変数が同じインスタンスを参照しているかどうかを確認します。
if tenEighty === alsoTenEighty {
print("tenEighty and alsoTenEighty refer to the same VideoMode instance.")
}
// tenEighty and alsoTenEighty refer to the same VideoMode instance.
「同一」(3 つの等号または ===
)は、「等しい」(2 つの等号または ==
で表される)と同じではないことに注意してください。「同一」とは、クラスタイプの 2 つの定数または変数がまったく同じクラスインスタンスを参照することを意味します。「等しい」とは、型の設計者が定義する「等しい」という観点で、適切に 2 つのインスタンスの値が等しいまたは同等だと見なされることを意味します。
独自の構造体とクラスを定義するときは、2 つのインスタンスがどうすれば等しいと見なされるのかを決定するのはあなた次第です。==
および !=
演算子の独自の実装を定義するプロセスは、Equivalence Operators(等価演算子)で説明されています。
ポインタ(Pointers)
C 言語、C++、または Objective-C の経験がある場合は、これらの言語がポインタを使用してメモリ内のアドレスを参照することを知っているかもしれません。ある参照型のインスタンスを参照する Swift の定数または変数は、C 言語のポインタに似ていますが、メモリ内のアドレスへのポインタを直接示しているではなく、参照を示すためにアスタリスク(*
)を記述する必要はありません。代わりに、これらの参照は、Swift の他の定数または変数と同様に定義されます。Swift 標準ライブラリには、ポインタを直接操作する必要がある場合に使用できるポインタとバッファ型が用意されています。Manual Memory Managementを参照ください。