並行処理(Concurrency)
最終更新日: 2024/08/30 原文: https://docs.swift.org/swift-book/LanguageGuide/Concurrency.html
非同期操作を行う。
Swift には、構造化された方法で非同期および並行コードを書くためのサポートが組み込まれています。非同期コード(asynchronous code)は、コードは一度にプログラムの 1 箇所のみで実行されますが、後で中断(suspend)および再開(resume)できます。こうすることで、ネットワーク上のデータの取得やファイルの解析などの長く時間のかかる操作の途中で、UI の更新などの短い時間で完了できる操作を行い、その後引き続き操作を続けることができます。並列コード(parallel code)とは、複数のコードを同時に実行することを意味します。例えば、4 コアプロセッサを搭載したコンピュータは、各コアがタスクを 1 つ実行し、4 つのコードを同時に実行できます。並列および非同期コードを使用するプログラムは、一度に複数の操作を実行します。そして、外部システムからの結果を待つ操作を中断します。
並列または非同期コードを使って様々なタスクを追加でスケジューリングできる柔軟性は、逆に複雑さが増すコストも伴います。Swift を使用すると、コンパイル時のチェックでコードの意図を表現できます。例えば、アクター(actor)を使用してその可変状態(mutable state)に安全にアクセスできます。ただし、元々処理速度の遅いコードやバグを含んだコードに並行処理を追加しても、処理速度が速くなったりコードが正しくなる、というようなことは保証されません。実際、並行処理を追加すると、コードのデバッグが余計に難しくなる可能性さえあります。ただし、並行に処理をする必要があるコードに Swift の言語レベルのサポートを使用することで、コンパイル時に問題をキャッチすることができます。
この章の残りの部分では、非同期コードと並列コードのこの一般的な組み合わせを参照するために並行(concurrency) という用語を使用します。
NOTE
過去に並行コードを書いたことがある場合は、スレッドの操作に慣れているかもしれません。Swiftの 並行モデルはスレッドの上に構築されていますが、直接スレッドとやり取りすることはありません。Swift の非同期関数は、実行中のスレッドを放棄することができ、最初の関数がブロックされている間、そのスレッド上で別の非同期関数を実行できます。非同期関数が再開するとき、その関数がどのスレッドで実行されるかについて、Swiftは何も保証しません。
Swift の言語サポートを使用せずに並行処理を書くことは可能ですが、そのコードは読みにくくなる傾向があります。例えば、次のコードは写真名のリストをダウンロードし、そのリストの最初の写真をダウンロードし、その写真をユーザに表示します。
listPhotos(inGallery: "夏休み") { photoNames in
let sortedNames = photoNames.sorted()
let name = sortedNames[1]
downloadPhoto(named: name) { photo in
show(photo)
}
}
このような単純なケースでも、コードには一連の完了ハンドラを記述する必要があるため、ネストしてクロージャを書くことになります。このスタイルでは、より複雑な深いネストを持つコードはすぐに扱いにくくなってしまいます。
非同期関数の定義と呼び出し(Defining and Calling Asynchronous Functions)
非同期関数(asynchronous function)または非同期メソッド(asynchronous method)は、実行の途中で中断できる特別な種類の関数またはメソッドです。これは、完了するまで実行するか、エラーをスローするか、何も値を返さない通常の同期関数(synchronous function)や同期メソッド(synchronous method)とは対照的です。非同期関数またはメソッドは、これら 3 つのことのいずれかを行いますが、何かを待っているときに途中で一時中断する可能性があります。非同期関数またはメソッドの本文内で、実行が中断する可能性のある箇所を示します。
関数またはメソッドが非同期だということを示すには、エラーをスローすることを示すために throws
を使用するのと同様に、パラメータの後に async
キーワードをその宣言に書きます。関数またはメソッドが値を返す場合は、戻り値の型の矢印(->
)の前に async
を書いてください。例えば、ギャラリ内の写真の名前を取得する方法が次のとおりです:
func listPhotos(inGallery name: String) async -> [String] {
let result = // ... ある非同期のネットワークコード...
return result
}
非同期かつエラーをスローする関数またはメソッドの場合は、throws
の前に async
を書きます。
非同期メソッドを呼び出すと、そのメソッドが戻るまで実行が中断されます。中断する可能性のある中断ポイント(suspension point)を示すために、メソッド呼び出しの前に await
を書きます。これは、スロー関数を呼び出すときにエラーが発生した場合にプログラムの流れを変更する可能性を示すために try
を書くのと同様です。非同期メソッド内では、別の非同期メソッドを呼び出す場合にのみ、実行フローが中断されます。中断は決して暗黙的に処理を割り込むものではありません。つまり、全ての中断する可能性があるポイントには await
をマークします。
コードに中断する可能性のあるポイントをすべてマークすることで、同時実行されるコードを読みやすくし、理解しやすくできます。
例えば、下記のコードは、ギャラリ内の全ての写真名を取得し、最初の写真を表示します:
let photoNames = await listPhotos(inGallery: "夏休み")
let sortedNames = photoNames.sorted()
let name = sortedNames[1]
let photo = await downloadPhoto(named: name)
show(photo)
listPhotos(inGallery:)
と downloadPhoto(named:)
関数は両方ともネットワークリクエストをする必要があり、完了するまでかなり時間がかかる可能性があります。戻り値の型の矢印の前に async
を書くことで両方とも非同期にすると、このコードが写真を取得するのを待っている間も、他のアプリのコードは実行し続けることができます。
上記の例の並行性を理解するために、ここでは 1 つの起こりうる実行順序について示します:
- コードは最初の行から実行を開始し、最初の
await
まで実行されます。listPhotos(inGallery:)
関数を呼び出し、その関数が返されるのを待つ間、実行を中断します - このコードの実行は中断されていますが、同じプログラム内の他の並行処理が行われます。例えば、長期間実行されるバックグラウンドタスクは、新しいフォトギャラリのリストを更新し続けます。そのコードは、
await
が書かれた次の中断ポイント、または処理が完了するまで実行されます listphotos(inGallery:)
から戻り値が返された後、その地点から処理は再開されphotoNames
に戻り値を割り当てますsortedNames
とname
を定義する行は、通常の同期処理です。これらの行では何もマークされていないため、中断される可能性はありません- 次の
await
は、downloadPhoto(named:)
関数の呼び出し時に示されています。このコードは、その関数が戻り値を返すまで再び実行を一時中断し、他の並行処理を実行する機会を与えます downloadPhoto(named:)
が戻り値を返し、その戻り値がphoto
に割り当てられ、show(_:)
を呼び出すときに引数として渡されています
await
でマークされた、コード内で処理が中断する可能性のあるポイントは、非同期関数またはメソッドが戻るのを待っている間に、現在のコードが処理を一時中断することを示しています。内部では、Swift は、現在のスレッド上のコードの実行を中断し、代わりにそのスレッド上の他のコードを実行するため、これはスレッドを譲る(yielding the thread)と呼ばれます。await
時にコードを中断できるようにする必要があるため、プログラム内の特定の場所だけが非同期関数またはメソッドを呼び出すことができます:
- 非同期の関数、メソッド、プロパティの本文
@main
でマークされている構造体、クラス、または列挙型のstatic main()
メソッド内- 下記のUnstructured Concurrency(独立した並行処理)で示す独立した子タスク(child task)のコード
あなたはTask.yield()
を呼び出すことで、明示的に中断する可能性のあるポイントを挿入できます。
func generateSlideshow(forGallery gallery: String) async {
let photos = await listPhotos(inGallery: gallery)
for photo in photos {
// ...この画像のための数秒の動画をレンダリングする...
await Task.yield()
}
}
ビデオをレンダリングするコードが同期的であると仮定した場合、中断ポイントは含まれていません。ビデオをレンダリングする作業にも時間がかかる可能性があります。しかし、明示的な中断ポイントを追加するために Task.yield()
を定期的に呼び出すことができます。このように長時間実行するコードを構造化することで Swift はこのタスクの進捗と、プログラム内の他のタスクの進捗のバランスをとることができます。
Task.sleep(for:tolerance:clock:)
)メソッドは並行処理がどのように機能するかを学ぶためにシンプルなコードを書くのに便利です。このメソッドは、少なくとも指定した時間だけ現在のタスクを中断します。以下は listPhotos(inGallery:)
関数で、sleep(for:tolerance:clock:)
を使ってネットワーク操作の待ち時間をシミュレートしています:
func listPhotos(inGallery name: String) async throws -> [String] {
try await Task.sleep(for: .seconds(2))
return ["IMG001", "IMG99", "IMG0404"]
}
上記のコードのバージョンの listPhotos(inGallery:)
は、Task.sleep(until:tolerance:clock:)
がエラーをするため、非同期かつ throwing です。このバージョンの listPhotos(inGallery:)
を呼び出す際は、try
と await
両方書きます。
let photos = try await listPhotos(inGallery: "雨の週末")
非同期関数は throwing 関数といくつか似ている点があります。
非同期や throwing 関数を定義する際は、async
と throws
を付け、呼び出し側は await
と try
を付けます。
throwing 関数は他の throwing 関数を呼び出すことができるのと同じように、非同期関数は他の非同期関数を呼び出すことができます。
しかし、重要な違いがあります。エラーをハンドリングをするために、エラーをスローするコードを do-catch
ブロックで囲めたり、他の場所でエラーをハンドリングするために、コードで起こったエラー保持するために Result
を使うことができます。
これらのアプローチは、エラーをスローしない関数から throwing 関数を呼び出せるようにします。
例えば、
func availableRainyWeekendPhotos() -> Result<[String], Error> {
return Result {
try listDownloadedPhotos(inGallery: "雨の週末")
}
}
対照的に、同期コードから非同期コードを呼び出して結果を待つことができるように、非同期コードをラップする安全な方法はありません。Swift の標準ライブラリは、意図的にこの安全でない機能を省略しています。なぜなら、自分で実装しようとすると、わかりづらいデータ競合やスレッド問題、デッドロックのような問題につながる可能性があるからです。既存のプロジェクトに Concurrency コードを追加するときは、トップダウンで作業します。具体的には、コードの最上位レイヤーを並行処理に変換することから始め、そのコードが呼び出す関数やメソッドの変換を開始し、プロジェクトのアーキテクチャーを一度に 1 レイヤーずつ変換していきます。ボトムアップのアプローチは、これまでのところ同期コードが非同期コードを呼び出すことができないためできません。
非同期シーケンス(Asynchronous Sequences)
前のセクションの listPhotos(inGallery:)
は、非同期に、全ての配列の要素が取得できてから配列全体を一度にまとめて返します。もう 1 つの方法として、非同期シーケンス(asynchronous sequence)を使用して、コレクションの要素を 1 つずつ待機することができます。下記では非同期シーケンスを使って配列の要素を 1 つ 1 つ取得しています:
import Foundation
let handle = FileHandle.standardInput
for try await line in handle.bytes.lines {
print(line)
}
通常の for-in
ループを使用する代わりに、上記の例は for
の後に await
を書きます。非同期関数またはメソッドを呼び出すときのように、await
は中断する可能性を示します。for-await-in
ループは、次の要素が利用可能になるのを待っている間、各繰り返しの開始時に処理の実行を中断する可能性があります。
Sequenceプロトコルに準拠することで、for-in
ループで独自の型を使用できるのと同じように、AsyncSequenceプロトコルに準拠することで、for-await-in
ループで独自の型を使用できます。
非同期関数を並列に呼び出す(Calling Asynchronous Functions in Parallel)
await
を使用して非同期関数を呼び出すと、一度に 1 つのコードしか実行されません。非同期コードが実行されている間、呼び出し側は、次のコード行を実行する前にそのコードが終了するのを待ちます。例えば、ギャラリから最初の 3 つの写真を取得するには、次のように downloadPhoto(named:)
関数を 3 回呼び出して、結果を待つことができます:
let firstPhoto = await downloadPhoto(named: photoNames[0])
let secondPhoto = await downloadPhoto(named: photoNames[1])
let thirdPhoto = await downloadPhoto(named: photoNames[2])
let photos = [firstPhoto, secondPhoto, thirdPhoto]
show(photos)
しかし、このアプローチには重要な欠点があります: ダウンロードは非同期で、その実行中に他のタスクが実行できますが、downloadPhoto(named:)
の呼び出しは一度に 1 つの呼び出ししか実行されません。つまり、次の写真のダウンロードを開始する前に、前の写真のダウンロードの完了を待ちます。しかし、これらの操作を待機する必要はありません。各写真の処理は独立して、同時にダウンロードできます。
非同期関数を並行に実行するには、let
の前に async
を書き、この定数を使用する度に await
を書きます。
async let firstPhoto = downloadPhoto(named: photoNames[0])
async let secondPhoto = downloadPhoto(named: photoNames[1])
async let thirdPhoto = downloadPhoto(named: photoNames[2])
let photos = await [firstPhoto, secondPhoto, thirdPhoto]
show(photos)
この例では、downloadPhoto(named:)
の 3 つの呼び出しは、前のものが完了するのを待たずに開始します。利用可能な十分なシステムリソースがある場合は、これらは並行に実行できます。これらの関数呼び出しには await
がマークされていないため、関数の結果を待つためにコードが中断されません。代わりに、photos
が定義されている行まで処理は継続し、その時点で、プログラムはこれらの非同期呼び出しの結果を必要とするため、3 つの写真のダウンロードが完了するまで実行を一時中断するため、 await
を書きます。
下記に、この 2 つのアプローチの違いについて説明します:
- 次の行のコードでその関数の結果が必要な場合は、
await
を使用して非同期関数を呼び出します。これにより、順番に実行されるタスクが作成されます - 後々のコードまで結果が必要ない場合、
async-let
を使用して非同期関数を呼び出すと、並行に実行できるタスクが作成されます await
とasync-let
のどちらも、中断されている間に他のコードを実行できるようにします- どちらの場合も、非同期関数が結果を返すまで、必要に応じて実行が一時中断することを示すために、
await
を使って中断ポイントを示します
これらのアプローチの両方を混在させることもできます。
タスクとタスクグループ(Tasks and Task Groups)
タスク(task)は、プログラムの一部として非同期に実行できる作業単位です。全ての非同期コードはいくつかのタスクの一部として実行されます。タスク自体は一度に 1 つのことしか行いませんが、複数のタスクを作成した際、Swift はそれらのタスクを同時に実行するためにスケジューリングします。
前のセクションで説明されている async-let
構文は、暗黙的に子タスク(child task)を作成します。この構文は、すでにどのプログラムを実行する必要があるかがわかっている場合に便利です。
タスクグループ(task group)(TaskGroup
インスタンス)を作成し、明示的にそのグループに子タスクを追加することもできます。こうすることで、グループでの優先順位とキャンセルをより制御しやすくし、動的な数のタスクを作成することもできます。
タスクは階層を構築します。タスクグループ内の各タスクは同じ親タスク(parent task)を持ち、各タスクは子タスクを持つことができます。タスクとタスクグループの間の明示的な関係のために、このアプローチは構造化された並行性(structured concurrency)と呼ばれます。 タスク間のこの明示的な親子関係にはさまざまなメリットがあります。
- 親タスクが子タスクの完了を待つことを忘れることはありません
- 子タスクに高い優先度を設定すると、親タスクの優先度が自動的にエスカレーションされます
- 親タスクがキャンセルされると、子タスクも自動的にキャンセルされます
- タスクローカルの値は、効率的かつ自動的に子タスクに伝搬します
以下は、任意の枚数の写真を処理する、写真をダウンロードするコードの別バージョンです:
await withTaskGroup(of: Data.self) { group in
let photoNames = await listPhotos(inGallery: "夏休み")
for name in photoNames {
group.addTask { await downloadPhoto(named: name) }
}
for await photo in group {
show(photo)
}
}
上記のコードは、新しいタスクグループを作成し、ギャラリーの各写真をダウンロードする子タスクを作成します。Swift は条件が許す限り、これらのタスクを同時に実行します。子タスクが写真のダウンロードを終了するとすぐに、その写真が表示されます。子タスクが完了する順番についての保証はないので、このギャラリーの写真は任意の順番で表示されます。
NOTE: 写真をダウンロードするコードがエラーを投げる可能性がある場合、代わりに
withThrowingTaskGroup(of:returning:body:)
を呼び出します。
上のコードリストでは、各写真はダウンロードされてから表示されるので、タスクグループは結果を返しません。結果を返すタスクグループの場合は、withTaskGroup(of:returning:body:)
に渡すクロージャの中に結果を蓄積するコードを追加します。
let photos = await withTaskGroup(of: Data.self) { group in
let photoNames = await listPhotos(inGallery: "夏休み")
for name in photoNames {
group.addTask {
return await downloadPhoto(named: name)
}
}
var results: [Data] = []
for await photo in group {
results.append(photo)
}
return results
}
前の例と同じように、この例でも写真ごとに子タスクを作成してダウンロードしています。前の例とは異なり、for-await-in
ループは次の子タスクの終了を待ち、そのタスクの結果を結果の配列に追加して、すべての子タスクが終了するまで待ち続けます。最後に、タスクグループはダウンロードした写真の配列を全体の結果として返します。
タスクキャンセル(Task Cancellation)
Swift の並行処理では、協調キャンセルモデルを使用します。各タスクは、実行中の適切な時点でキャンセルされたかどうかをチェックし、キャンセルに適切に応答します。タスクがどのような作業をしているかに応じて、キャンセルに応答することは、通常、次のいずれかを意味します:
CancellationError
のようなエラーをスローするnil
または空のコレクションを返す- 部分的に完了した作業を返す
写真が大きかったり、ネットワークが遅かったりすると、写真のダウンロードに時間がかかることがあります。すべてのタスクが完了するのを待たずに、ユーザーがこの作業を停止できるようにするには、タスクがキャンセルをチェックし、キャンセルされたら実行を停止する必要があります。タスクがこれを行うには、Task.checkCancellation()
型メソッドを呼び出す方法と、Task.isCancelled
型プロパティを読み取る方法の 2 つがあります。checkCancellation()
を呼び出すと、タスクがキャンセルされていた場合にエラーがスローされます。スローされたタスクは、エラーをタスクの外に伝播し、タスクのすべての作業を停止することができます。これは実装が簡単で理解しやすいという利点があります。より柔軟にするには、isCancelled
プロパティを使用します。このプロパティを使用すると、ネットワーク接続を閉じたり、一時ファイルを削除するなど、タスクの停止の一部としてクリーンアップ作業を実行できます。
let photos = await withTaskGroup(of: Optional<Data>.self) { group in
let photoNames = await listPhotos(inGallery: "夏休み")
for name in photoNames {
let added = group.addTaskUnlessCancelled {
guard !Task.isCancelled else { return nil }
return await downloadPhoto(named: name)
}
guard added else { break }
}
var results: [Data] = []
for await photo in group {
if let photo { results.append(photo) }
}
return results
}
上記のコードでは、以前のバージョンからいくつかの変更が加えられています:
- 各タスクは
TaskGroup.addTaskUnlessCancelled(priority:operation:)
)メソッドを使用して追加され、キャンセル後に新しい作業が開始されるのを防ぎます addTaskUnlessCancelled(priority:operation:)
を呼び出すたびに、コードは新しい子タスクが追加されたことを確認します。グループがキャンセルされた場合、added
の値はfalse
になります。上記の例の場合、コードは追加の写真をダウンロードしようとするのを止めます- 各タスクは、写真のダウンロードを開始する前に、キャンセルされたかどうかをチェックします。キャンセルされた場合、タスクは
nil
を返します 最後に、タスクグループは結果を集める際に
nil
値をスキップします。nil
を返すことでキャンセルを処理することは、タスクグループが完了した作業を破棄する代わりに、部分的な結果(キャンセル時にすでにダウンロードされていた写真)を返すことができるということですNOTE: タスクの外側からタスクがキャンセルされたかどうかを確認するには、型プロパティの代わりに
Task.isCancelled
インスタンスプロパティを使用します。
キャンセルの即時通知が必要な作業には、Task.withTaskCancellationHandler(operation:onCancel:)
)メソッドを使用します。たとえば:
let task = await Task.withTaskCancellationHandler {
// ...
} onCancel: {
print("キャンセルされた!")
}
// ... 少し経って...
task.cancel() // Prints "キャンセルされた!"
キャンセルハンドラーを使用する場合、タスクのキャンセルはまだ協調的です。つまり、タスクを完了まで実行するか、途中でキャンセルをチェックして早期に停止する必要があります。キャンセルハンドラーが開始してもタスクはまだ実行中なので、タスクとキャンセルハンドラーの間で状態を共有することは避けてください。
独立した並行処理(Unstructured Concurrency)
前のセクションで説明されている構造化された並行処理のアプローチに加えて、Swift は独立した並行処理(unstructured concurrency)もサポートしています。タスクグループの一部のタスクとは異なり、独立したタスク(unstructured task)には親タスクがありません。どんな方法で使われたとしても、独立したタスクを完全に柔軟に管理することができます。しかし、それらの正しい動作を保証することは完全に開発者の責任です。現在のアクター(actor)上で実行される独立したタスクを作成するには、Task.init(priority:operation:) 関数を呼びます。現在のアクター上で実行されないタスク(切り離されたタスク(detached task))を作成するには、Task.detached(priority:operation:) 関数を呼び出します。これらの関数は両方ともタスクハンドル(task handle)を返し、例えば、その結果を待つかキャンセルすることができます。
let newPhoto = // ... ある写真データ ...
let handle = Task {
return await add(newPhoto, toGalleryNamed: "Spring Adventures")
}
let result = await handle.value
切り離されたタスクの管理の詳細については、Taskを参照ください。
アクター(Actors)
タスクは、プログラムを隔離された並行処理の断片に分割するために使用できます。タスクは互いに隔離されているので並行に実行しても安全ですが、タスク間で何らかの情報を共有したい場合もあります。アクター(actors)を使用すると、並行処理をするコード間で安全に情報を共有することができます。
クラスのようにアクターは参照型なので、Classes Are Reference Types(クラスは参照型)の中の値型と参照型の比較はアクターにも当てはまります。しかし、クラスとは異なり、アクターの可変状態(mutable state)にアクセスできるのは一度に 1 つのタスクだけです。これにより、複数のタスクが、同じアクターのインスタンスとやり取りする必要があるコードでも、安全にアクセスできるようになります。例えば、下記は気温を記録するアクターです:
actor TemperatureLogger {
let label: String
var measurements: [Int]
private(set) var max: Int
init(label: String, measurement: Int) {
self.label = label
self.measurements = [measurement]
self.max = measurement
}
}
中括弧ペア({}
)の定義の前に actor
キーワードを付けてアクターを導入します。TemperatureLogger
アクターには、外部の他のコードがアクセスできるプロパティがあり、max
プロパティはアクター内のコードのみが最大値を更新できるように制限されています。
構造体やクラスと同じイニシャライザの構文を使用して、アクターのインスタンスを作成します。アクターのプロパティやメソッドにアクセスするとき、中断する可能性のあるポイントを示すために await
を使用します。例えば:
let logger = TemperatureLogger(label: "アウトドア", measurement: 25)
print(await logger.max)
// 25
この例では、logger.max
へのアクセスは中断する可能性があります。アクターはその可変状態にアクセスすることを一度に 1 つのタスクのみに制限しているため、別のタスクからのコードが既にロガーとやり取りしている場合、このコードはプロパティへのアクセスを待機します。
対照的に、アクター内のコードはアクターのプロパティにアクセスするときに、await
を記載しません。例えば、下記は TemperatureLogger
を新しい温度で更新するメソッドです:
extension TemperatureLogger {
func update(with measurement: Int) {
measurements.append(measurement)
if measurement > max {
max = measurement
}
}
}
update(with:)
メソッドは既にアクター上で実行されているので、max
のようなプロパティへのアクセスに await
を書きません。また、このメソッドは、なぜアクターが一度に 1 つのタスクしかそれらの可変状態とやり取りすることを許さないのかの理由の 1 つを示しています: アクターの状態の更新は一時的に不変性を壊します。TemperatureLogger
アクターは温度のリストと最大温度を追跡し、新しい測定を記録するときに最高温度を更新します。アップデートの途中で、新しい測定値が追加されても、max
が更新される前の状態だと、温度ロガーは一時的に矛盾した状態になります。複数のタスクが同じインスタンスと同時にやり取りする問題を防ぐことで、次のような問題を防ぎます:
update(with:)
を呼び出して、まずmeasurements
配列を更新します- コードが
max
を更新する前に、他の場所で最大値と気温の配列を読み取ります - コードは
max
を変更することによって更新を終了します
この場合、データが一時的に不正になっていた間に、update(with:)
の途中で割り込んでアクターへアクセスされた場合、他の場所で実行されているコードが不正な情報を読み取るかもしれません。Swift のアクターを使用すると、それらの状態に対して一度に 1 つの操作のみアクセス可能なことと、await
をマークした場所でのみ中断される可能性があるため、この問題を防ぐことができます。update(with:)
では中断ポイントが含まれていないため、他のコードは update
の途中で他のコードからデータにアクセスできません。
アクターの外のコードが、構造体やクラスのプロパティにアクセスするように、これらのプロパティに直接アクセスしようとすると、コンパイル時にエラーが発生します。例えば:
print(logger.max) // エラー
アクターのプロパティはそのアクターの独立したローカル状態の一部のため、await
を書かないと logger.max
へのアクセスは失敗します。このプロパティにアクセスするコードは、アクタの一部として実行する必要があり、これは非同期操作であり、await
を記述する必要があります。Swift は、実行されているコードのみがアクターに隔離されたローカルの状態にアクセスできることを保証します。この保証はアクター隔離(actor isolation)と呼ばれています。
Swift の並行処理モデルの以下の側面は、共有された可変状態について推論しやすくするために一緒に機能します:
- 中断する可能性のあるポイントの間のコードは、他の並行処理コードから中断される可能性はなく、順次実行されます
- アクターのローカル状態と相互作用するコードは、そのアクター上でのみ実行されます
- アクターは一度に 1 つのコードだけを実行します
このような保証があるため、アクターの内部にあるコードは await
を含まず、プログラム内の他の場所で一時的に不正な状態になるリスクなしに更新できます。例えば、以下のコードは測定された温度を華氏から摂氏に変換します:
extension TemperatureLogger {
func convertFahrenheitToCelsius() {
measurements = measurements.map { measurement in
(measurement - 32) * 5 / 9
}
}
}
上のコードでは、測定値の配列を一度に 1 つずつ変換しています。map 操作の進行中、いくつかの温度は華氏で、他の温度は摂氏です。しかし、どのコードにも await
が含まれていないため、このメソッドには潜在的な中断ポイントがありません。このメソッドが変更する状態はアクターに属し、そのアクター上ではないコードが読んだり変更することから保護されています。つまり、単位変換の進行中に、他のコードが部分的に変換された温度のリストを読む方法がないということです。
潜在的な中断ポイントをなくすことで一時的な不正状態から保護されているアクター内にコードを書くことに加えて、そのコードを同期メソッドに移すことができます。上記の convertFahrenheitToCelsius()
メソッドは同期メソッドなので、潜在的な中断ポイントを含まないことが保証されています。この関数は、一時的にデータモデルの一貫性を失わせるコードをカプセル化し、データの一貫性を取り戻す前に他のコードが実行できないようにして作業を完了させることを、コードを読んだ人が簡単に認識できるようにします。将来、この関数に並行コードを追加して、潜在的な中断ポイントを導入しようとすると、バグを導入する代わりにコンパイル時エラーが発生します。
Sendable
型(Sendable Types)
タスクとアクターを使用すると、プログラムを安全に同時に実行できるように、分割することができます。タスクまたはアクターのインスタンスの内部では、変数やプロパティなどの可変状態を含むプログラムの部分は、「同時実行ドメイン」と呼ばれます。一部の種類のデータは、データに可変状態が含まれ、かつ重複するアクセスから保護できないことから、同時実行ドメイン間で共有できません。
ある同時実行ドメインから別のドメインに共有できる型は、「Sendable
型(Sendable Types)」と呼ばれます。例えば、アクターメソッドを呼び出すときに引数として渡すことも、タスクの結果として返すこともできます。この章の前半の例では、同時実行ドメイン間で渡されるデータに対して常に安全に共有できる単純な値型を使用しているため、Sendable
かどうか(sendability)については説明していません。一方で、一部の型は同時実行ドメイン間で安全に渡すことができません。例えば、可変プロパティを含み、それらのプロパティへのアクセスを直列化していないクラスは、異なるタスク間でそのクラスのインスタンスを渡すときに、予測できない誤った結果を生成する可能性があります。
Sendable
プロトコルへの準拠を宣言することにより、型が Sendable
なことを示すことができます。Sendable
プロトコルにはコード要件はありませんが、Swift が強制するセマンティック要件があります。一般に、型を Sendable
にするには 3 つの方法があります。
- 値型で、その内部の可変状態が全て他の
Sendable
なデータで構成されている場合。例えば、Sendable
な格納プロパティを持つ構造体や、Sendable
な関連値を持つ列挙型など - 可変状態がなく、不変で
Sendable
なデータのみで構成されている場合。例えば、計算プロパティのみを持つ構造体やクラスなど @MainActor
の付いたクラスや、特定のスレッドまたはキューのプロパティへのアクセスを直列化しているクラスなど、可変状態の安全性を保証するコードが含まれている場合
セマンティック要件の詳細については、Sendable プロトコルを参照ください。
Sendable
なプロパティのみを持つ構造体や、Sendable
な関連値のみを持つ列挙体など、一部の型は常に Sendable
です。例えば:
struct TemperatureReading: Sendable {
var measurement: Int
}
extension TemperatureLogger {
func addReading(from reading: TemperatureReading) {
measurements.append(reading.measurement)
}
}
let logger = TemperatureLogger(label: "紅茶用のやかん", measurement: 85)
let reading = TemperatureReading(measurement: 45)
await logger.addReading(from: reading)
TemperatureReading
は Sendable
なプロパティのみを持つ構造体で、public
または @usableFromInline
としてマークされていないため、暗黙的に Sendable
です。Sendable
プロトコルへの準拠が暗示されている構造体のバージョンは次のとおりです:
struct TemperatureReading {
var measurement: Int
}
明示的に型を Sendable
とマークし、Sendable
プロトコルへ暗黙に準拠することを上書きするには、extension を使用します:
struct FileDescriptor {
let rawValue: CInt
}
@available(*, unavailable)
extension FileDescriptor: Sendable { }
上のコードは、POSIX ファイル記述子のラッパーの一部を示しています。ファイル記述子のインタフェースは、整数を使用して開いているファイルを識別して対話し、整数値は Sendable
ですが、ファイル記述子は並行処理のドメイン間で送信することは安全ではありません。
上記のコードでは、FileDescriptor
は暗黙的に Sendable
に準拠できる基準を満たす構造体です。しかし、extension で Sendable
への準拠を利用できなくし、この型が Sendable
に準拠することを防いでいます。